

黒田昌克 神戸女子大学文学部准教授にきく、プログラミング教育の現状と子どもたちのためにできること【2024 版】
2020年度にプログラミング教育が小学校で必修化されてから4年が経ちました。小学生たちのプログラミングの学びは、いまどうなっているのか、そして今後、どう進化していくべきなのでしょうか。そのヒントを見つけるべく、小学校におけるプログラミング教育や技術教育を研究分野としている、神戸女子大学文学部准教授の黒田昌克さんにお話を聞いてきました。
小学校でのプログラミング教育の目的
まずは、小学校におけるプログラミング学習の目的についておさらいしてみましょう。文部科学省では「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性」という3つの観点から、プログラミング教育で育みたい資質や能力を設定しています。
「知識・技能」…電化製品や信号機、AIといったように、コンピュータが身近で活用されていることに気づくことや、コンピュータに意図した処理を行わせるためには必要な手順があることに気づくことを目指す。
「思考力・判断力・表現力等」…自分が意図する一連の活動を実現するために、どんな動きの組み合わせが必要なのか、動きに対応する記号をどのように組み合わせるのか、記号の組み合わせをどのように改善すればより意図した活動に近づくのかといったことを論理的に考えていく力(=プログラミング的思考)を育成する。
「学びに向かう力・人間性」…発達段階に即して、コンピュータの動きをよりよい人生や社会づくりに生かそうとする態度を養う。児童にとって身近な問題の発見・解決にコンピュータの働きを生かそうとしたり、コンピュータ等を上手に活用してよりよい社会を築いていこうとしたりする、といった主体的に取り組む態度を養う。
―これらの目標については、小学生の保護者も正しく理解できていない部分もあるかもしれません。詳しく教えていただけますか。
「いまだに誤解があるかもしれないのですが、プログラミング教育というのは、子どもたちをプログラマーとして育成するための教育ではありません。技術が発展していくためには、開発者だけでなく、技術を正しく利用、評価、管理できる、技術的な素養(技術リテラシー)を持ったユーザーが必要です。そして、その相互作用こそが重要なのです。素晴らしい技術が生み出されたとしても、その技術を正しく評価し、相応の対価やリスペクトを示す社会がなければ、その技術は社会に還元されることなく、開発者も外に出て行ってしまうかもしれません。
こうした、開発者とユーザー、双方の技術リテラシーを育てていくというのが、プログラミング教育の重要な使命だと個人的には考えています。」
実際に小学校で行われているプログラミング教育の内容と課題

―実施されている授業の実例について教えてください。
「実際に私が小学校で実施した、3年生の総合の授業では、身近な課題をロボットで解決するという授業を行いました。
あるグループは、先生のもつ『宿題が提出されたかどうか、確認するのが大変』という課題に対して、基礎的なプログラミング用いて、提出されるノートを数えるロボットを制作したのですが、別のグループからのフィードバックを生かしながら、最終的にはノートの数が全員分そろったら音声で先生に知らせる、というロボットを完成させることができました。」
―なるほど、より問題解決に近づけることを追求する、とても実践的な内容ですね。
「ただ、これはほんの一例です。実際には、プログラミング教育の目標を達成するため、全国の先生が試行錯誤しているというのが現状です。
先ほどの例のように、さまざまな実践が生み出されている一方で、学校や先生の熱量によって取り組みに差があるというのも事実です。この問題を解決するためには、プログラミング教育によって、社会全体の技術リテラシーが向上するという、プログラミング教育の意義を、先生たちの中でしっかりと形成していってもらう必要があります。同時に、先生たちをサポートする体制や、専門家が積極的に協力できる体制も構築していかなければならないですね」
―保護者としても、自身がプログラミング教育を経験していないことや、他教科とは違いプログラミング教育の学習状況に評定がないこともあって、どう向き合って、どう伸ばしていったらいいのかわからないという声もよく聞かれます。
「プログラミング教育を通して、子どもたちが新しい力を獲得している様子を学校が公開授業などでオープンにすることで、保護者としても、プログラミング教育の意義を理解できるかもしれません。その結果、通知表等に反映されなかったとしても、子どもたちを温かく見守れるのではないでしょうか」

―では、実際に子どもがプログラミングに興味を示しているとき、保護者としては、どういった振る舞いが望まれるのでしょうか。
「子どもたちが何のためにプログラミングをしているのか、その目的に注目して、声かけしてみてください。例えば、誰かにプレイしてほしくてゲームを作ったなら、実際にプレイしてみて、『ここが面白かったよ』とフィードバックしてあげる。それが、子どもにとっては、とても貴重な体験になります。
また、家庭の中でもプログラミングをしている子は、宿題でもない限り自主的にやっているはずです。今まではゲームをやっているだけだったけど、積極的につくる側になっている。これは非常に大きな変化なので、その主体性を評価してあげてほしいですね」
苦手意識を払しょくする<プログラミング学習×ゲーミフィケーション>

―主体的な子どもばかりではなく、その学習内容から苦手意識を持つ子もいると思いますが、どういった子どもには、どんなアプローチが考えられるのでしょうか。
「私が研究しているもののひとつに、小学校におけるゲーミフィケーションの個別最適化に関する研究があります。ゲーミフィケーションとは、ゲーム以外のことにゲームの要素を応用することです。子どものタイプに合ったゲーム要素を、学習の中に取り組むことで、より効果を引き出せるという可能性があります。
簡単に説明すると、子どもたちを、報酬が好きなタイプ、周囲を助けることに喜びを感じるタイプ、自分の実力を試すことにモチベーションを感じるタイプ、といった複数のタイプに便宜的に分けて、それぞれがどのようなゲーム要素を好むのかを分析します」
―なるほど、タイプによって、ゲーム要素の好みに違いがあるかもしれないということですね。
「そうですね。プログラミング教育における学習で言えば、ひとつひとつの処理をきちんと教えてほしい子や、意味はいいからとにかく早くやらせてほしい子など、いろんなタイプがいます。それぞれに合った最適な学び方やゲーム要素を提供できれば、子どもたちのモチベーションが続いていくのではないかと。
また、個々の対応が難しいように感じる学校現場においても、タイプごとに効果的なゲーム要素を選択肢として提示することで、それぞれが自分に馴染むものを選び取って学習できる環境づくりができるのではないかと考えています」
―環境づくりで言うと、黒田さんは女性がプログラミングを体験できる機会をもっと増やしたいとも話されていますよね。
「私自身、現在、教員として女子大に身を置いているので、女性が安心してプログラミングに触れる体験を増やす活動については、積極的に取り組んでいきたいです」
プログラミング的思考だけじゃない。さまざまなプログラミング教育の効果が発揮されるゼロワングランドスラム

―プログラミング教育の発展のために学術的な立場から数々のアプローチをしている黒田さんの目に、『全国小学生プログラミング大会 ゼロワングランドスラム』はどう映りましたか?
「競技ということで、どのような能力が発揮されるのか、という点で見ると、さまざまなプログラミング的思考が発揮できる内容だと思います。
特に、チームのメンバーと短い時間で役割分担したり、ペーパープロトタイプを作ったり、何度も試行錯誤したりといった過程において、子どもたちの優れたコミュニケーション能力や表現力等が発揮されているなと感じました。こういったところに現れる、直接的なプログラミング能力の向上以外のプログラミング教育の効果の可能性は、こうした大会を通じて、多くの人に感じてもらえるのではないでしょうか。
その他にも、競技の中でエラーを修正したり新たな機能を追加したりという、試行錯誤を繰り返すことによって、粘り強さや困難に立ち向かう力も育む機会になると思います。大会では、子どもたちのそういった力にもぜひ注目したいですね」
―ありがとうございます。最後に、プログラミング教育を通して、子どもたちにどのような将来を期待しますか。
「誰かが何とかしてくれる、と考えるのではなく、自分たちの行動で社会をよりよくできるというマインドを身につけてほしいです。
たとえば、プログラミングというのは、意図した通りになるかどうかは置いておいて結果をすぐに確認することができます。また、その気になれば大人顔負けの成果を出すことも不可能ではありません。プログラミング教育を通して、自分の行動で『誰かが喜ぶ』『何かが良くなる』という経験を積むことで、子どもたちが、創造性を発揮しながら社会に対して主体的にアプローチできるようになることを期待します」
黒田昌克さん プロフィール

小学校教員として10年以上の勤務を経験した後、現職(神戸女子大学文学部准教授)に至る。研究分野としては、小学校プログラミング教育と技術教育を中心にICTやゲーミフィケーションを用いた教育方法等に興味を持っている。
創造力豊かな開発者とテクノロジーと適切に向き合えるリテラシーを持ったユーザーの卵を育てていくために日々の教育活動や研究活動に取り組んでいる。


